交流事業の本質2

■日独交流セミナーに参加して

 第1章 序論
 第2章 本論
   第1節 交流のコツ
     交流事業参加のきっかけ
     交流事業の本質1
     交流事業の本質2
     通訳の問題
     語学の問題
     北海道カボチャ誤訳事件
     ギンレイソウ誤解事件
     日本愛妻家協会事件
     地図が読めない女
     ドイツ人を驚かせた事件
     交流のコツみたいなもの

   第2節 ドイツの現状
   第3節 ドイツYHの現状
   第4節 セミナーについて

 第3章 結論

交流事業の本質2

 人つくり的な性格について。

 日独青少年指導者交流事業に参加して感じたことは、交流事業は視察旅行ではなく、人作りであるということを実感しました。もちろん遣唐使のような視察旅行で様々な成果を持ち帰ることも大切なのですが、基本的には参加者の人間をつくることなのだなと感じました。

「交流とは人つくりである」
「参加者の人間をつくることにある」

この2つが完了した時には、交流事業の八割は終わったようなものだなという思いをもちました。後の二割のうち、一割がドイツとの人脈作りで、残りの一割が貴重な情報と体験を持ち帰ることだと感じました。そう思ったのには、それなりの訳があります。

 今回の交流事業に参加する直前のことです。私どものユースホステルに、偶然、別の日独交流事業(FUJIプログラム)に参加したことのある人が泊まりました。その方は、不幸にも交流事業のマイナス面を多く受けとめてしまった結果、残念なことにドイツ嫌いとなり、ドイツに対して、かなり辛口の批評をしておられました。

 現状を良く知らなかった私も、その場では「ああ、そうなの?」と間に受けてしまいましたが、今は、色々な不幸な誤解が両者にあったのではないかということを察することができます。

 しかし、そういった誤解は、未然に防げるものなら防ぎたいものです。確かに交流したために生まれる誤解というものもあります。私も、うまく伝わらなくて何度も歯がゆい思いをしました。しかし、そういう誤解も、ある程度は防ぐことは可能だと思います。それを防ぐことが「人つくり」だと思いました。

 私たちは、ドイツに到着して夜遅くに、国際担当のザビーネさんのオリエンテーションを受けました。三枚のレポート用紙にスケジュールが書いてあり、それを一通り読み上げただけですが、彼女は最後に一言だけ言いました。

「たった三枚の紙に書ききれてしまう内容ですが、この三枚を作り上げるために私たちが、どれだけ苦労したかは、ユースホステル運動を行っているあなた方なら、よく御存知のことと思います」

 御存知です。
 いや、存じております。

 ドイツユースホステル協会だけでなく、日本ユースホステル協会の皆さんも、どれだけ裏方で苦労しているのか、似たような仕事をしている私たちは痛いほど知りうる立場にあります。しかし、日独青少年指導者交流事業のお話をもらった時は、大名旅行で視察旅行ができるくらいにしか思っていませんでした。だから後でプログラムをもらった時には、びっしりと詰まったセミナーに驚き呆れ失望したものでした。

 ただ、私たちはザビーネさんの最後の言葉に素直に反応できる立場にありました。裏方の苦労を察することのできる立場にありました。しかし、そういう立場に無い人や、そういう感性をもてない人たちなら色々な不満は噴出していたでしょう。そう考えると
「交流とは人作りである」
と言いたくなります。

 こんな事もありました。ヒルデさん(ビーネフェルト大学教授)の御自宅に食事に招かれた時のことです。美味しいスパークリングワインを頂き、音楽会を開いてもらい、自家製のリンゴ料理とホットワインを頂き、会話が盛り上がってきた時のことです。ヒルデさんは、こうおっしゃったのです。

「昔は、日本の学生さんをホームステイさせてたの。どの日本人の子供たちも養子にしたくなるくらい可愛くてね、一緒に御飯を食べたり、会話をしたりして楽しかった。けれど、最近の日本の学生さんは、ホームステイしても、私たちと混じり合おうとしないの。口も聞かずに観光ばかりしている」
「・・・・」
「最近の日本の青少年たちは私たちを利用できる道具だと思っている。だから、もうホームステイはやめたわ」

 誤解のないように言いますが、ヒルデさんは日本通の親日家の人で柔道五段の腕前です。見方によっては、普通の日本人よりも日本文化を知っているし、何人も日本人をホームステイさせており、日本の青少年問題にも詳しい人です。来日もしているし部屋には信楽焼の花瓶もあります。そういう人の発言だということを知っておいてもよいでしょう。

 このヒルデさんの発言にコーディネーターのアスリートさんも言いました。

「私が担当しているFUJIプログラムの日本人の青少年たちにも、そういう傾向があります。昔の日本の青少年は、みんなで何かをなしとげるとか、真剣に交流を望んでいたと思います。けれど最近の日本の青少年は、利己的になっていると思います」

 誤解のないように言いますが、アスリートさんも弓道をやっている日本通の親日家です。そして、FUJIプログラムや日独青少年指導者交流事業のコーディネーターとして、多くの日本の青少年指導者や、日本の青少年たちの御世話をしてきた人です。ある意味で日本人と日本文化を知っている人が、述べている発言なのです。

 しかし、ここで日本の青少年に対してフォローが入りました。ザビーネさんです。オリエンテーションで「たった三枚の紙に書ききれてしまう内容ですが・・・・」と説明してくれた人です。彼女は言いました。

「それはドイツの青少年でも同じような傾向があります」

 しかし、そんな彼女のフォローにもかかわらず、私の心はグザリと来ていました。私だって同じではないかと。私も、日独青少年指導者交流事業に気高い理想をもって参加したのではなく、リヒャルト・シルマンの資料ほしさに参加した口です。動機は誠にもって不純でした。ヒルデさんが非難する日本の青少年と何処が違うというのだろうか? 全く同じではないかと反省しました。

 そして、一晩、寝られぬ思いで悶々としました。時差ぼけもありましたが、どうにも興奮してしまって寝られませんでした。興奮のあまり、あれやこれやと考えながらビーネフェルトユースホステルの館内を徘徊しては考え込み、明かりのあるところでレポート用紙に思ったこと、感じたことを書き始めました。

 交流事業とは、人を作ることである。

 そう思えてなりません。

 どんな情報を持ち帰るかは、本当は大したことではなくて、どれだけの感謝の気持ちがもてるかが大切なのではないかと思いました。ひょっとしたら交流事業の本質は、ドイツに行く前に八割方、終わってしまっているのかもしれません。これが昔の日本人なら事前研修が無くとも、すでに人間ができていたから問題がないのかもしれませんが、ひょっとしたら、私のように「行けてラッキー」と安易に考える人も出てくるかもしれません。

 この交流事業には、事前研修がありますが、その事前研修で、前回参加者の大阪府ユースホステル協会の滝口さんと、日本ユースホステル協会の渡辺さんに、交流についての説明会がありました。二人ともユーモアを交えて面白おかしく楽しそうに説明してくれました。そのおかげで、私たち2006年の参加者は、過去の交流についてや、お土産の用意などについて、色々と教わることができ、いくつかの恥をかかずにすみましたが、この事前研修が無かったらと思うとゾッとします。つまり人間ができてなかった。

 逆に言えば、事前研修によって私たちは多少なれども人間としての最低なものを掴むことができたわけですから事前研修の重みについては、どれほど強調しても強調が足りません。

 もちろん事前研修が無くても大丈夫な人徳者もいることは否定しませんが、間違えて私のような、のんき者が紛れ込まないとも限りませんから、事前研修には充分な配慮を行うこととともに、すでに交流事業に参加したことのあるメンバーをもって、不幸な誤解をつくらないためにも支援グループを作るのもよい方法だと思います。そして、ヒルデさんやアスリートさんたちが漏らした感想をきちんと伝えていくことが大切だと思いました。
このサイトに関するお問い合わせは、北軽井沢ブルーベリーYGHの佐藤まで御連絡ください。

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