ドイツの現状2(職人国家)

■日独交流セミナーに参加して

 第1章 序論
 第2章 本論
   第1節 交流のコツ
   第2節 ドイツの現状
     ドイツの現状1(ネオナチ)
     ドイツの現状2(職人国家)
     ドイツの現状3(日本の問題)

   第3節 ドイツYHの現状
   第4節 セミナーについて

 第3章 結論

職人国家

 ちなみにドイツで、肉体労働の仕事に就こうとする人は、どんな職につくにせよ、まず最低三年の徒弟期間があり、この期間が終わるとゲゼレという職人試験が待っています。
 ゲゼレ試験にパスすれば、一本立ちの職人になれます。
 そしてゲゼレを五年やると、親方の試験を受ける資格ができます。
 この親方というのが、マスター(ドイツ語でマイスター)であり、大学に行った者は「学芸の親方」なのであり、マスター(ドイツ語でマイスター)は何も大学の称号に限ったわけではありません。
 従ってドイツのマイスターの免許状というのは、日本の大学で出すマスターの免状よりは、はるかにものものしくて立派であり、公式の称呼に於いても仕立屋シュミットさんなら、ヘア・シュナイダーマイスター・シュミット。日本の哲学修士■■■氏というのと同じ格式となります。

 これは、一見すると良いことのように思えます。
 しかし、光あるところには影があります。

 職人国家ドイツにとっての最大の弱点は失業です。プロヘッショナルな職人たちは、仕事があれば高給をもらい生活も保障され社会的な地位も認められています。しかし失業すると、どん底に落ちます。だから職のある人は、豊かなのに職のない人たちは、酷く貧乏になってしまいます。通訳のヨーコさんは、貧しい人は、とことん貧しいとおっしゃっていましたが、その貧しい人というのは、職に就けない人たちです。

 これが日本だと、貧しさの意味が違ってきています。貧乏人に職がないということは無く、選びさえしなければ、どんな人でも職はあります。何故ならば、求人する側は、必ずしもプロヘッショナルな職人を求めてないからです。しかし、職人国家ドイツでは違っています。ドイツでは、

「仕事がある=豊か」
「仕事が無い=貧困」

で中間というものがありません。そのうえ失業が発生する時は、まず腕の未熟な者から解雇されていきます。となると労働経験の浅い若者から解雇されていくことになります。ここにドイツの青少年が置かれた厳しい環境があります。ヨーコさんは言います。

「ドイツでは、500万人の失業者が出ました。1932年には600万人の失業者によってナチスが政権をとっていますから、現在のドイツは非常に危険なのです」

 この説明で私は、ナチスが何故、あれだけ熱狂的にドイツ国民に支持されたか理解できました。ナチスは、政権を取ってアッという間に失業問題を解決してしまったからです。失業が解決されれば、ドイツ国民の生活は跳ね上がるからです。プロヘッショナル職人国家であるドイツでは、失業問題が政治における生命線を握っています。職の有る無しによって生活が天地の差になるからです。これが日本だと違っています。ためしにビーネフェルトYHのマネージャーに一つ質問してみました。

「このビーネフェルトYHのガラス清掃は、何人の人数で、どのくらいの日数で終わりますか?」
「2人がかりで3日かかります」

 遅い。仕事が遅い。それに非能率。

 登山(ロッククライミング)を趣味とする私は、十年間にわたって何カ所かのガラス清掃会社にいたことがあります。現場で部下を指揮したり、ビルのガラス清掃の見積もりをとったこともありますが、その経験からして仕事が遅すぎます。これは、彼らがプロヘッショナルな職人であるためです。

 もし、日本のガラス清掃会社なら2人がかりで3日といった無駄なことはしません。5〜6人で1日で終わらせます。その方が能率があがります。日本のガラス清掃会社の場合、必ず1〜2人のアルバイトを雇っていますし、素人的な未熟練労働者も多いです。ですから日本の場合、2〜3人のプロの技を持った人がガラスを磨き、2〜3人のアルバイトや未熟練労働者が、磨き終わった後の水拭きをしたり、磨く前の窓枠の荷物を退かしたりします。つまりプロとアマの完全分業によって、プロ2人よりも圧倒的に能率よく仕事を終えることができます。

 ですから日本に於いては、未熟練労働者でも充分に働けるチャンスがあります。障害者さえ(障害者戦力としてではなく)一般戦力として雇う可能性があります。プロとアマの完全分業のやり方によっては、障害者の労働効率があがる可能性があるからです。しかし、これが職人国家ドイツでは、どうなっているのでしょうか?

 実は幸運にもドイツ滞在中にガラス清掃の現場を、数分見ることができましたが、日本人のやり方とだいぶ違っていました。彼らは集団方式をとる私が知っている日本のやりかたと違って、一人一人プロヘッショナルな職人として個人の技量をもって働いていました。その技量は目を見張るものがありました。

 また、屋根瓦の葺き替え作業をしている現場、ビルの壁面清掃している現場、道路工事の現場も目撃できました。いずれも私が経験したことのある仕事です。その作業も目を見張るものがありました。どの技も驚くべき神業でした。能率と効率はともかくとして。
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