シルマン伝までの経緯3 失敗した連載

■リヒャルト・シルマン伝の紹介
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シルマン伝までの経緯3 失敗した連載

 リヒャルト・シルマンについての調査結果は、季刊 『風のたより』という同人誌に連載しました。連載初期は、簡単な伝記物語を数回ほどで終わる予定でした。
 ところが連載がすすみ、シルマンを調査していきますと、『風のたより』に連載したシルマン伝は、致命的な欠陥を持っていることに気がつきました。それは、私自身がドイツのことをよく知らなかったために多くの勘違いをしてしまったことに原因があります。

  『風のたより』に連載されたシルマン伝は、国際ユースホステル協会が一九六三年に出版した『ユースホステルの祖父リヒャルト・シルマン』を基礎資料とし、ドイツ史を調べたことを味付けした連載でしたが、掘り下げて調べていくうちに、どうしても分からなくなってしまったのです。

 例えば、ヒトラーの登場。何か突然あらわれた感じがするのです。どうして登場したのか、どんなに調べても、さっぱり分かりません。しかし、古本屋で見つけた

『シャハト伝(フランツ・ロイテル著/昭和十三年発行)』

を読むことによって、目から鱗が落ちました。

 シャハト博士は、ナチス政権において、経済成長を推進したことで有名な人ですが、彼の業績よりも、ドイツの通貨問題・賠償金問題・外債問題を通じてヨーロッパがどのような歴史に進んだかということの方に目がいきました。そして

「ああ、こうやってヒトラーが現れたのか」

と分かりかけてきました。そして、いろいろな手がかりが掴めてきました。ヒトラーを支持する者は、どこから現れてきたとか、反抗したのは何者だったのかとかです。

 例えば、最もヒトラーを支持し、ユダヤを迫害したのは、ライン地方の人々であり、逆に最もヒトラーに反抗したのもライン地方の人々でした。では、シルマンの生まれたプロイセンではどうであったか?と言いますと、その全く逆です。迎合もしなかったし反逆もしなかった。ユダヤへの迫害も少なかった。それは統計を見ると一発でわかります。焼き討ちされたユダヤ寺院の数を地域別に調べると一目瞭然なのです。

 こうなると
「シルマンの生まれ育ったプロイセンとは、どんなところか?」
という疑問がわいてきます。

 私は今まで漠然と「プロイセンは軍国主義の国=プロイセン性悪説」をイメージしていましたが、ナチスに焼き討ちされたユダヤ寺院の数を地域別に調べてみると、そんな単純なものではないことに気づき、もう一度プロイセンを一から洗い直してみると、今まで持っていたプロイセンのイメージがガラガラと崩れてしまいました。

 しかし、これは無理のないことだったと思います。プロイセン性悪説は、司馬遼太郎をはじめとする日本の歴史小説の通説でしたし、あの西ドイツでさえ、戦後まもなくの間、第二次大戦の原因をプロイセンになすりつけていたからです。しかし、プロイセンに関する専門書をよく読むと、それは冤罪であることに気がつきます。

 その結果、『風のたより』のシルマン伝の構成を大幅に変更せざるをえなくなりました。そして連載にドイツ史を大幅に導入しました。第一次大戦についても大きくふれてみました。

 しかし、すでに書いてしまった連載部分をどうするかが問題でした。どのように継ぎ接ぎすれば良いのだろうかと真剣に悩みましたが、前提が変わった以上、いろいろ工夫してみたのですが、どうしても書き換えは不可能でした。シルマン伝の連載した時のテーマと、違うテーマになってしまっているからです。

 私は、『風のたより』に連載を始めたときに、漠然とドイツ統一からワンダーフォーゲル運動が生まれ、そこからユースホステル運動が生まれたと思っていました。ところが詳しく調べていきますと、ワンダーフォーゲル運動とユースホステル運動は、それぞれ別のコンセプトから生まれていました。

 また、ユースホステル運動には、シルマンの個性が大きく影響しており、その前提としてプロイセン地方の文化風習が欠かせないこともわかりました。その結果『風のたより』のシルマン伝を全て書き直さない限り、解決がつかないという結論に達しました。

「よし連載を停止し、シルマン伝を自費出版しよう」

 私は、シルマン伝を一から全部書き直して自費出版する決意をしました。2006年は、日本におけるユースホステル運動55周年。リヒャルト・シルマン御逝去から45周年。この記念すべき時を前にして、リヒャルト・シルマン伝を自費出版することになりました。

 本の内容は、『風のたより』に連載されたものと全く別物になっています。違う視点で書き直してあります。そのさいに参考として『若き教養市民層とナチズム(田村英子)』『ドイツ青年運動(ウォルター・ラカー)』『ワンダーフォーゲル入門(大島鎌吉)』などの資料を特に重視してあります。テーマも内容も大幅に変えました。ユースホステル運動は、ワンダーフォーゲル運動の延長ではなく、一種の国民運動と捉えなおしました。

 しかも、その国民運動はナチスに強奪され利用された悲劇が、新しいシルマン伝を書く上でのテーマになると思いました。逆に言うと、ナチスが何故、あれほどドイツ国民に熱狂的に支持されたかも、今の私には、おぼろげながらに理解できます。ナチスは、シルマンの考えたユースホステル運動のノウハウをたくみに盗み取って、自分たちの政権維持のために利用し、シルマンを追い払ったからです。


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